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LYNNのいたずら毎日

LYNNのいたずら毎日

Operas and Concerts

 休暇をまとめてとれることになったので、子供の頃から憧れであったウィーンに出かけることにした。ウィーンではシーズン真っ盛りなのでコンサートやオペラを楽しみ、ザルツブルクでは世界遺産の街を堪能し、インスブルックではアルプスの麓でのんびりするというプランにした。
 全くの個人旅行で旅の後半6日間は一人旅になるので、色々なエピソードに事欠かない充実した旅行になった。それを一つ一つ紹介したいくらいだが、紙幅にも限りがある。よってウィーンでのコンサートとオペラのレポートをしたい(一応オーケストラのサイトですしね)。

○5月5日 11時開演 Sir Simon Rattle / Wiener Philharmoniker
Beethoven / Sinfonie Nr.2&5

 立ち見しかチケットがとれなかったが、立ち見席は一階後方のため、届いてくる音に膨らみと広がりがあった。CDで聴くWPの音がそのまま耳に届くといった風情。
 2番は若書きの良さを十分に押し出した演奏。フレッシュで情熱があり、青春の息吹さながらに駆け抜けるといった曲風が、何のフィルターも通さずに聞こえてくる。弦楽器、特にヴァイオリンは難しいことで知られているこの曲だが、流石WPの面々は芸達者というか、16分音符のパッセージなどものともせず、ラトルの要求に次々と応えて行く様は圧巻という他になかった。
 WPの生演奏を生まれて初めて聴いた体験は、きっと一生忘れないだろう。

 さていよいよ5番。そのころは既に足が棒になっていた(休憩時間に動いてしまうとせっかく確保した僅かな隙間が、すぐ埋まってしまうため、休憩時間も動かずにいた)。ところが5番が始まって1分少々が過ぎた頃、この演奏は尋常な演奏ではないということに気づいた。アマチュア・オケのメンバーなどは、所謂「運命」など莫迦にする傾向が強い。CDなどを聴いても、どの演奏もある一定のイメージの枠から出る演奏は、殆どないせいもあるのかもしれない。
 ところが、このラトル/WPの演奏は、私の固定観念を破るものだった。驚き、また感動した。まず、スコアが「見える」ような演奏であった。この曲は熱さと厚みで押すことも出きる曲である。だがWPの編成は確か1stが6pult、KBは4、5人だった。つまり、「薄い」。そしてラトルは「薄さ」を良く活かした解釈をしていた。楽器間のフレーズの連携が実になめらかに、そして時にははっきりとわかる。パート間が非常にまとまっているため、曲の構成がより伝わってくるのである。そのため、ベートーヴェンの「運命」のスコアを、まるで目の前で繰って見せてくれるような感覚に何度も捕らわれた。全体の音が楽譜で「見える」という体験は、それこそ初めてだったから、これがWPの実力なのかと、恐れ入った。
更に特筆すべきは、そのppの表現である。2楽章や3楽章から4楽章への橋渡し部分など、実に美しく、また緊張感を保つppの表現に、全身鳥肌が立つほどであった。ppは、弛緩せずに高度なテンションを保ちながら表現するのは非常に難しい。あの、完璧な静寂とテンションの対比。相反するものが一つにまとまっているあの美しさは、幽玄の世界と言ってもいいかもしれない。これだけでも聴く甲斐がある。
 また私の記憶とは違う箇所が多々あった。前回のムシカの演奏会で演奏した6番「田園」ではベーレンライターの新版を使用したので、もしかしたらそれと同じかもしれないと思い、翌々日にウィーンの有名な楽譜店Doblingerでスコアを調べてみたところ、果たしてベーレンライター版に基づいた演奏だということがわかった。

○5月5日 17時開演 R. Wagner / Die Meistersinger von Nurnberg
Dirigent / Leopold Hager, Wiener Staatsoper

 さて夕方からは待望のオペラである。一旦ペンションに戻ってからシャワーを浴びて、ドレスに着替えてオペラ座へ。演目は大好きなヴァーグナーということもあり、いささか興奮気味。昼のWPにノックアウトされたせいもある。

 出来は、文句なしに近かった。挙げるとすれば、オーケストラ。もしかして手抜きなのか、昼間聴いたWPとはちょっと音質が違うと感じたものの、ハコのせいなのかもしれないと自分を納得させた(このオーケストラがどうだったのかは後日判明する)。
 同行した声楽家M嬢の話によると、このオペラは力量に優れた個性豊かな男性歌手を揃えるのに労多いことから、余り演奏されない演目かもしれないとのこと。確かに、女性歌手の存在は非常に薄い。
 「トリスタンとイゾルデ」完成後に作った作品であるだけに、「トリスタン」の暗さから解放された気分のヴァーグナー大先生、悪ノリのしすぎ!と思う部分も多々ある。彼と敵対していた批評家ハンスリックをモデルにしたベックメッサーは、これでもかというほど作品中で徹底的に揶揄され、嘲笑されている。調子外れのリュートを手に若い女性に求婚するベックメッサーは、歌手(Eike Wilm Shulte)が芸達者ということもあり、最後にはおかしみを通り越して、ちょっと哀れになってしまうほどでもある。
 ハンス・ザックス役のWolfgang Brendelは、「格好いい中年」。舞台上の彼に思わず惚れてしまった。腹もさほど出っ張らず、時には朗々と歌い、時にはベックメッサーと完璧な掛け合い(コメディー)を見せてくれるBrendelは、得難い歌手なのではなかろうか。音程がほんの微か合わないという声の不調もあり、カーテンコールでは一部ブーイングもあったけれど、私にとっては、歌手一人の好不調より、プロダクションとして、非常に充実した素晴らしい舞台だったと満足している。


○5月7日 10時開演 Sir Simon Rattle / Wiener Philharmoniker
Beethoven / Sinfonie Nr.8&6

やってしまった! 開演時間間違い。11時からだと勘違いして、のんびりとペンションを出たのが10時20分。間もなく10時からだったと気付き、大慌てで徒歩15分の道のりを、ヒールで走る。だって今日は8番と6番。一番楽しみにしていた演目だし、それに席だって前から7列目の中央も中央、ド真ん中。なんとか6番の開始には間に合った。
 曲が始まってもまだゼーゼーしていたが、ほどなく気分は、前日散歩したベートーヴェンの小川へと。音楽評論家のMさんから、絶賛されるラトルのベートーヴェンの中では6番については賛否が分かれると前評判を聞いていた。席が近いせいもあって、オーケストラの音全体はよくわからなかったが、弦の美しさは堪能できた。
 魔の2楽章は、やっぱり少しずれたりする。一瞬ヒヤっとする場面も1回あった。だが、5番の時に全身総毛だった、あの完璧なまでの静寂と緊張のppの表現に、またもや鳥肌が立つ。本当に素晴らしい。
4楽章の嵐では、これでもかというほど弦楽器全体が熱演。本場のプロ・オケはみんなこうなのだろう。続く5楽章では嵐の後の美しさに満ち、穏やかでそして清々しい演奏に、私の目の前がぼーっと霞む。
 終わってもしばらくぼーっとしていたが、やっぱりこの曲はプロでも難しいのだと思った。この演奏でさえ、おそらくこの曲の持つ真価は発揮していないだろう。


○5月7日 19時30分開演 Quatuor mozaiques
F. Schubert / Streichquartett c-moll D.703
F. Mendelssohn / Streichquartett a-moll op.13
L. v. Beethoven / Streichquartett cis-moll op.131

今回はコンツェルト・ハウスでのカルテット。古楽器を使用した世界最高のカルテットといわれているだけに、これも期待十分。
このカルテットは面白い。1stが非常なリーダーシップを発揮している。彼が歌い、彼が盛り上げている。つまり彼が音楽を作り上げている。2ndの女性はおきゃんな感じである。Violaの女性は控えめだが非常に良い音を出していた。そして確実でもある。Celloはチョット陰薄い? 2ndの女性がもう少し厚みのある音を出して、少し落ち着きを持ち確実に支えれば、更に良くなるだろうと思った。
 シューベルトとメンデルスゾーンはよかった。1stのリーダーシップと情熱によって持ちこたえられる曲である。が、後半のベートーヴェンはそうはいかない。曲が曲だけに、難しい。ある種形而上学的であるこの曲は、4人が4人とも自律的でないと曲にならないと実感した。アルバン・ベルク・カルテットと並び、地元ウィーンが自身を持って世界に送り出すカルテットであるだけに、拍手も好意的であっったけれど、私にはちょと欲求不満。最後のベートーヴェンに納得がいかなかった(一カ所アンサンブルの乱れもあり崩壊の憂き目に遭いそうなハプニングもあったから)。


○5月8日 15時開演 Sir Simon Rattle/Wiener Philharmoniker
Beethoven/Sinfonie Nr.4&7

今度の席はバルコニーだが、ラトルとコンマスのキュッヒルの丁度真横。よってラトルの表情と指揮振り、またラトルに応えるキュッヒルの表情がつぶさにわかる好位置。
 今回の旅行で多くのコンサートとオペラを観たが、全ての中でこの演奏会が一番の出来であったと私は思う。余りに感動的で余りにエキサイティングな演奏。特に7番は圧巻。素晴らしいの一言に尽きる。素晴らしすぎて、詳しい感想が書けないくらい。今でも思い出すと、目頭が熱くなる。このコンサートに立ち会うことができて、私は本当に幸せものだ。
 だが気になったことがひとつ。このコンサートはSIEMENS社がスポンサーだったのだが、私の向かい側のバルコニー席中央部はSIEMENS社の幹部と思われる人たちが独占。独占といっても幹部自体は5人ほどで、たった5人だけで数十人分の席を一人?占め。どこでも同じこの風景に、「ウィーンよ、おまえもか」と嘆息。


○5月8日 19時開演 V. Bellini/ La Sonnambula
Musikalishe Leitung / Stefano Ranzani, Wiener Staatsoper

 いよいよやってきました、期待の「夢遊病の女」。超絶技巧コロラトゥーラでないとこなせない主役アミーナを、これまた実力のあるNatalie Dessayが歌うというのだから、日本を発つ前から期待していた演目。
 さて、幕が開けて…
 ?????? オケって国立歌劇場オケだよねぇ? なんだか棒弾き…。どうしちゃったのだろう…と思う間もなく、アミーナの恋敵リーザ(これまた超絶技巧)のアリア。 これって上手いのかなぁ??? あ、やっとアミーナ登場。デッセイってこの人だよねぇ。このアリアってM嬢が楽譜とカラスのCD送ってくれたから予習はしていたけど、同じ曲だよね??? 違う曲みたい。 後ろのおっさん、げっぷを何度もして五月蠅い(怒)。会場のあちこちから咳が聞こえる。これも五月蠅い(怒)。相手役の人も頑張ってはいるだろうが、あまりにもアミーナ役のデッセイとの力量(声の質)が違いすぎる。急な代役とはいえかわいそう…。
 こんな具合に次から次へと頭の中に?マークが出没したなか、ようやく最終場面。アミーナの喜びのアリアと彼女を讃える合唱で終わるのだが、アミーナがいきなり赤いロングドレスで登場して歌っている。?????アミーナって清純な乙女の筈なのに…これじゃあムーラン・ルージュの女だよぉ。カーテン・コールに至ってはデッセイばかりに拍手。 釈然としないなか会場を出ると、フランスから(と思われる)大型バスが数台も止まっている。なんのことはない。フランスの誇るスター歌手Natalie Dessayがシュターツ・オーパーにデビューするから、地元フランスからツアー客が大挙していただけのこと。休憩時間には一本23ユーロもするシャンパンを強制的に買わされ(マイスターの時には1杯数ユーロだったのに)、Dsssayの実力がより際だつようにと、相手役も含めそれ相応の実力しかない歌手で固め、そしてフランス大使が観劇にくるため、警察官を配備した警戒のなかでDessayはシュターツ・オーパーでデビューを果たしたわけだ。フランスの肝いりで歌ったDessay、あなたはこんなことでいいわけ!? と私は訊きたい。歌手としてのプライドってないんだろうか…。彼女の出来も今ひとつだったし、がっかりを通り越して怒りが。誰がこの案を考えたかは、一旅行者の私にはわからないけれど、これこそBelliniを莫迦にした演出もないんじゃないかなぁと思った次第。

○5月9日 17時開演 R. Wagner/ Die Walkure
Musikalische Leitung / Donald Runnicles

 日本でベルリン・シュターツカペレの「神々の黄昏」で大感動した私は、この演目のために、ザルツブルク行きを一日延ばした。日本でブリュンヒルデを歌ったDebola Polaskiがジークリンデ役でオペラ座でのロール・デビューをするというのだから、見逃せない。 まずオーケストラ。「マイスター」も「夢遊病の女」もオケとしては手抜き?との疑問が確信に変わった演奏。この2演目とは音の質が全く違う! 弦の響きがあの、WPの響きと同じだ。これは期待できるぞ、と開始後数分で確信する。
 Polaskiは、彼女としては満足度8割なのではなかろうか。日本で聞いた声の力強さとのびが今ひとつだったし、相手役のジークムント(彼はオペラ座デビューだった)とのバランスも良くない。ブリュンヒルデは恐らくベテラン歌手だろう。Polaskiと比べると力量不足の感が否めない(とはいえ実に好演でした)。

 こうやってオペラを3つ観てみると、色々なことがよくわかる。オペラ座側の思い入れ、出演者の事情、そしてオーケストラの思い入れ。年間300回の公演をこなすには、それなりの方法があるのだ。オペラを1つだけ観たのではわからなかっただろう。
 6日間で7つのオペラ、コンサートを見聞きした訳だが、まったく飽きなかった。良い演奏や環境というものは一朝一夕に作られるものではなく、伝統と、それをはぐくむ人々の努力があって作られるものなのだということを実感。
 今回WPのチケットを取るのに、Musikvereinの事務局の方々にメールである種のごり押しをしたのだが、向こうの人は親切だった。おかげで良い席で観ることが出来た。こちらの「聴きたい」という熱意があれば、通じるものなのだ。そのお礼といってはなんだが、来シーズンのMusikvereinのメンバーになった。もうすぐMembershipcardが送られてくる。さて、来春は何を聴きに行こうか。今からプログラムをチェックしている。


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